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□raining
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にゃ〜様よりリク『ジノバキで相合傘』
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raining
「・・・あ、降ってきちゃいましたね。」
6月の、とある休日。
ボクはバッキーと二人でマンション近くのカフェに来ていた。
彼は外で会う事を照れて嫌がるので、珍しく誘いに乗ってくれた事が嬉しかった。
しかしそんなボクらのデートに水を差すように、どんよりと曇った空からパラパラと雨粒が落ちてくるのが、大きなウィンドウ越しに見える。
「ま、タクシーでも呼べばいいさ。せっかくケーキが来た所なんだから、ゆっくり食べなよ。」
「ウッス!・・・って、こんな近いのにタクシーっスか?」
バッキーは苦笑いしながらケーキを食べ始めた。
そんなに甘い物が好きではないボクは、エスプレッソを啜りながら、雨模様の窓の外を眺める。
雨は嫌いだ。
髪型が決まらないし、泥まみれのスパイクやユニフォームなんて、ボクの美学にそぐわない。
車が汚れるから外出するのも億劫になる。
それに、嫌な事ばかり思い出してしまうから。
母親とケンカした日。
彼女に振られた日。
クラスの誰かに上履きを隠された日。
試合で結果が残せなかった日。
嫌な記憶の殆どに、雨が付き纏っていたような気がする。
窓の外では、雨足が強まっている。
カフェから自宅までは歩いて10分も掛からないけれど、傘なしでは帰り着く頃にはずぶ濡れになるだろう。
道行く人々も、慌てて傘を差したり、小走りで通りを駆け抜けてゆく。
灰色の空。
視界を塞ぐ雨粒。
(はぁ・・・。せっかくのデートなのに、憂鬱だな・・・。)
ため息をついた所で、ふと我に返った。
ボクが外を眺めながら物思いに耽っている間に、目の前でケーキを食べていたはずの恋人が消えていた。
(・・・トイレかな?)
彼が席を立った事にも気付かなかったなんて、自分でも驚く。
エスプレッソもすっかり温くなっていた。
荷物も置いたままだし、あまり気にせずに待っていると、可愛い彼が席に戻ってきた。
「王子っ!お店の人が傘、貸してくれたっスよ。」
そう言ったバッキーの手には、どこにでもありそうな黒い傘。
「お客さんの忘れ物で一年以上取りに来ないから、持って帰っていいそうです。」
「傘を借りられないか聞いてきてくれたんだ?ありがとう、バッキー。」
ボクが笑うと、飼い主に褒められた犬のようにバッキーも微笑んだ。
「・・・こういうの、何て言うんだっけ?二人で傘に入るの。」
「あ、相合傘・・・っスかね。」
「ああ、それ。一度やってみたかったんだよね、バッキーと。」
「う・・・結構、恥ずかしいっス・・・。」
確かに、傘を持ってくれているバッキーの横顔は赤かった。
「ふふ。そんなに緊張する事ないのに。」
「・・・王子は雨、嫌いですか?」
「うん、好きじゃないね。キミは好きなの?」
「えーっと、嫌いじゃないっス。あ、サッカーできないのは困るんですけど。雨の日って、雨以外の音が、聞こえにくいっていうか・・・雨の粒が音を包んでる、みたいな・・・うーん・・・」
バッキーは説明が下手だ。ボクはそんな彼も可愛いと思うんだけれど、緊張すると余計に支離滅裂になってしまう。
でも、何となく言わんとする事は理解できるような気がした。
今も小さな傘の下、二人を世界から切り離すように雨音が包んでいる。
「あ、小さい頃はよくカエルとかカタツムリつかまえてたっス。」
そう言って、バッキーは当時の事を思い出したように笑う。
「カタツムリって最近見ないね。・・・って、バッキー!肩がびしょ濡れじゃない!」
「え・・・だ、大丈夫っスよ、これくらい。」
「ダメだよ、風邪引いちゃうでしょ。もっと寄って。」
「いや、でも・・・あの・・・。」
「傘で顔なんか見えないから、平気だよ。」
微妙な距離を空けるバッキーの腰を抱き寄せると、その体に緊張が走るのを感じた。
ボクの服はちっとも濡れていないのに、彼の半身は雨で色が変わっている。
外で、それもこれだけ人通りのある場所で、こんなに接近する事なんて、初めてかもしれない。
だからバッキーはこんなに体を硬くしているのだろう。
それでもすれ違う人々は皆、傘の下で足元ばかりを見ながら、足早に通り過ぎてゆく。
きっとボクらに構う余裕なんてない。
「街中で堂々とくっつけるなんて、雨のおかげだね。」
「・・・そ、そうっス・・・ね。」
雨が嫌いじゃないと言ったバッキーは、恥ずかしさで涙目になりながら頷いた。
ふと、幼い頃に買ってもらった赤い長靴を思い出した。
赤色なんて女みたいだと友達にからかわれたけれど、自分ではお気に入りで、雨が降る度に長靴を履いて水溜りを歩いたっけ。
(ああ・・・雨も悪くない、かもね。)
フッと笑ったボクに、バッキーが不思議そうな顔をする。
「バッキーは小さい頃、何色の長靴履いてた?」
「えーっと・・・あ!赤いやつです。姉のお下がりで最初は嫌だったんスけど、だんだんカッコ良く思えて、気に入ってました。」
「・・・そっか。同じだね。」
小さな偶然が嬉しくて、彼の頬にキスをした。
「・・・っ!?」
予想通り、バッキーは目を白黒させて驚いている。
傘で隠れているとは言え、白昼堂々、往来の真ん中でキスなんて、どうやらただでさえ少ない彼のキャパを超えてしまったようだ。
そんな恋人が可愛くて、ボクは腰を抱く腕に力を込める。
「さ、早く帰って続きをしよう。」
わざと耳元で囁くと、今度は耳まで真っ赤になった。
(キミと一緒なら、雨の日もハッピーだよ。)
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とってもステキなリクをいただいたのですが、私の乏しい文章力ではこれが限界でした…(´д`)